会計士の気まぐれ日記

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ホリエモンが逮捕された理由

日本で色んな事業を手がけている有名人といったら誰でしょう??

こんなことを聞かれると真っ先に思い浮かぶのが、ホリエモンこと堀江貴文氏です。

宇宙事業とかやったり、本出したり、HIUやH高といったものを開いたり、、、、とにかく色んなことに手がけているカリスマ的な存在であることは否定しようがありません。

 

 

しかしそんな彼は、2006年に逮捕され、2011年から2年6ヶ月の間刑務所へ収監されていました。

そもそも、最近の10代の人とかは彼に逮捕歴があることすら知らないということも多いかもしれません。

ホリエモンは逮捕前もバラエティへ出演したり、選挙に出馬したり、プロ野球球団やテレビ局を買収しようとしたりと、まさに時代の寵児として話題のひっぱりだことなっていました。そんな矢先に突如として逮捕されたので、当時は本当に日本中が大騒ぎになったものです。

 

 

 

では、彼はなぜ逮捕されてしまったのでしょうか??
その理由を知ってる人は意外と少ないかもしれないので、今日は「ホリエモンが逮捕された理由」を簡単に説明してみたいと思います。
 
 
 

 ①自社株売却益(37億7,000万円)の計上

ホリエモンが創業者兼社長を務めていたライブドアは、2003年頃は売上高108億円、経常利益が13億円のまだまだ無名の会社でした。一見、「売上100億円以上だからすごいじゃないか」となりそうですが、上場会社の中ではまだまだ新興企業として捉えられるほどの規模です。
 
 
そんな彼らは、「クラサワ・コミュニケーションズ」という携帯電話関連事業を営むベンチャー企業を8億円で買収することを決定します。
ライブドアは、自社の株式を対価に他社の株式を取得する「株式交換」という手法による買収を提案したのですが、クラサワの株主(外資系投資ファンド)は、まだまだ無名の会社であるライブドアの株式を手にするよりも現金が欲しい、として現金対価による買収を強く要求しました。
 
 
そこでライブドアは、現金流出がなく、かつ、クラサワ株主に現金が入るようなスキームを考案します。しかもこのスキームは、ライブドアの株価が上昇すればするほど、ライブドアに利益をもたらすようなスキームになっていたのです。
どのようなスキームなのかを簡単に説明すると、
 
 
①まず、ライブドアとクラサワ株主の間で株式交換を実施。
②次に、クラサワ株主が取得したライブドア株式を、ライブドアの子会社であるライブドアファイナンスの出資により組成された投資事業組合が8億円で買い取る。
③そこから株式分割などにより株価が上昇した段階で、投資事業組合は証券市場にライブドア株式を売却し、キャピタルゲイン(売却益)を計上し、出資者であるライブドアファイナンスに利益分配を行う。
④ライブドアファイナンスは金融事業を営む会社なので、この投資事業組合からの利益分配を売上高として計上する。
 
 
 
という風になります。
上記を図示すると、以下のようになります(実際はもう少し複雑ですが)。
 
 

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※金額はあくまで例示であり、実際とは異なることに注意。

 
当時は、企業買収と株式分割は株式市場において非常に好材料として考えられていたため、このスキームはライブドアにとって以下の点で非常に優れていました。
 
・買収資金が不要であること
・買収&株式分割により、株価を上げることができること
・そうして株価が上がれば上がるほど、売却による利益が多く計上されること
 
同様のスキームでウェッブキャッシュ・ドットコムという会社も買収し、投資事業組合で発生した売却益を連結売上高として計上していました。
その総額、なんと37億7,000万円。ライブドアの同時期における実際の利益はマイナス3億円だったことに鑑みると、とんでもない金額の利益計上が行われていたことになります。
 
 
では、これの何が問題なのでしょうか??
 
 
連結会計基準上は、「実質的に支配している企業」を連結範囲に含めなければいけないこととされています。この投資事業組合はライブドアの子会社であるライブドアファイナンスにより出資されており、組成された目的も、もっぱらライブドア側で都合のよい買収形態をとることにありました。加えて、買収先企業の選定もライブドアの意思により決定されていることから、この投資事業組合が実質的に支配されている企業であることは明確です。
 
 
そのため、連結財務諸表上、この投資事業組合は「自社グループ」という扱いになり、本来は連結対象となるべきなのです。
そうなると、投資事業組合からすればライブドア株式は自社株式となるので、自社株式を売却したことにより発生した売却益は「資本剰余金」として計上しなければならず、連結財務諸表上、売上が計上されることはありえないのです。
それなのに、ライブドアはこの売却益を売上高として計上してしまった。
これが、有罪判決を受けることとなった要因の一つです。
 
 
 

 ②架空売上高(15億8,000万円)の計上

ライブドアは、2004年9月期の予想経常利益を50億円していました。
しかし、実際の経常利益はマイナス3億円。上記の自社株売却益による37億7,000万円の売上計上を行っても経常利益は35億円程度となり、あと15億円ほど足りません。
 
 
そこでライブドアの元CFOである宮内氏が、どうしても予想利益を達成するために、架空売上計上の手法を思いつきます。
具体的には、ライブドアが出資している投資事業組合が既に買収済みであるが、2004年9月期は連結対象に含められていなかった「キューズネット」と「ロイヤル信販」という会社に、マーケティング費用等の名目で総額15億8,000万円の架空発注を行わせたのです。
 これにより、キューズネットとロイヤル信販には合計15億8,000万円の費用が、
ライブドアには同額の売上高が計上されることとなりました。
 
 
いやいや、そんなん会計上売上高として認められないんちゃうの??
監査法人はなんでOK出したん??
 
 
となりますよね。
でもこれ、ちゃんキューズネットとロイヤル信販からは売上金として入金もされており、契約書もきちんと作成されていたので、監査法人としても明らかに売上として認められない、とは判断することができなかったのです。
 そのため、最終的には監査法人からもこの架空売上が認められ、無限定適正意見、つまり「財務諸表には重要な問題点はないですよ」という旨が記載された監査報告書が発行されていました。
 
  
しかし、キューズネットとロイヤル信販から入金された売上金は、ライブドアからの融資により捻出されていたうえ、契約書は不整合がないよう日付を遡って記載されていました。
 
なお、企業会計原則上、売上高の計上要件は以下のようになっています。
 
①取引当事者間の合意
②役務(サービス)の提供
③対価の支払い
 
この取引は、①と③は存在するものの、②の役務提供は行われていませんよね。
しかも、対価の支払いも、実質的に支配しているライブドアからの借入金により行われているため、③の要件も充足しているとは言えません。
そのため、この売上は企業会計原則上の売上高としては認められず、この取引により売上高を計上するのは認められないと判断されることとなりました。
 
 
これが、もう一つの有罪判決を受けることとなった要因です。
 
 
 

 証券取引法違反

結局、上記の2つの取引が、証券取引法(現在の金融商品取引法)違反の判決を受け、ホリエモン含むライブドア幹部および監査報告書にサインした公認会計士が逮捕されることとなったのです。
 
 
具体的には、証券取引法の以下の容疑にかけられました。
 
 
①偽計および風説の流布
②有価証券報告書虚偽記載
 
 
 
①の偽計および風説の流布は、実際には赤字であったにも関わらず、上記のような取引の結果完全黒字が達成された旨を公表したことや、ライブドアの株式交換比率がライブドアが優位になるように恣意的に決定されていたこと、そしてその株式交換比率は第三者により決定されたという嘘を公表したことにより、容疑にかけられました。
 
 
②の有価証券報告書虚偽記載は、有価証券報告書上の連結財務諸表に、意図的に嘘の情報を記載したと認められたために容疑にかけられました。
 
 
 
重要なのは、虚偽記載が意図的であれば「粉飾決算」となり、犯罪として刑事罰をくらうことになる一方で、意図的でないのであれば単なる決算書の誤りとなり、課徴金等の処分のみで済まされるということです。
そのため、この事件ではライブドア側に「間違った会計処理をしている」という意図があったかどうかが、判決結果を左右する問題になりました。
これは非常に難しい判断で、ライブドア側に意図があったかどうかについては様々な見解があります。
私個人しては、自社株売却益はおそらく本当にいけないことだとは知らずに行われていた一方で、架空売上の計上は明らかに犯罪の意図があるにも関わらず行われたのではないかと思っています。つまり、証券取引法違反の容疑にかけられることはある程度仕方ないということ。
 
  
ただ、ホリエモンは「この辺の一連の取引は全てCFOの宮内に任せていただから、俺は何も知らない」という主張を貫いていました。
この主張が本当だとしたら、ホリエモンに悪意(犯罪であることを知っていること)があったとは言えません。結局、この主張が本当であったかどうかを裏付ける決定的な証拠はでてきませんでした(細かく突っ込むと、知らなかったら知らなかったで善管注意義務違反として株主から代表訴訟を起こされる可能性はありますが)。
 
 
 
それなのに2年6ヶ月もの懲役刑を受けたのは、若くして超大金持ちになっており、時代の寵児として取り上げられていたホリエモンを逮捕することにより、大きな手柄を得たい検察側の嫉妬心やプライドがあったからかもしれません。実際、この事件よりも金額面、内容面において遥かに悪質な「日興コーディアルグループの粉飾決算」や、「東芝の粉飾決算」では、経営者は誰一人逮捕されておらず、課徴金のみで済まされているのです。政治絡みの都合等でこのような結果になっているのだとしたら、日本の司法制度にも問題があるといってよいでしょう。
 
 
 
 
まとめると、ホリエモンが逮捕されたことが正しいのかそうでないのかについては様々な考え方ができるために、一概にどうということは難しいけど、逮捕された理由は粉飾決算を行なったと判断されたから、ということ。
彼に問題があったと考えることもできるし、司法当局に問題があったと考えることもできる。さらに、この取引に「ノー」と言えなかった監査法人側にも問題がある。
ただ一辺倒に「ホリエモンは無実だー!」とか、「あいつは犯罪者だー!」とか言ってよいほど簡単な事件ではということですね。
 
 
 
 
 
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。