会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

DMMがバンクを5億円で売却したのはなぜか??

2017年、DMMが突如として70億円の買収を行ないました。

買収したのは、光本さんが率いる、不用品を即時に現金化できるサービス「キャッシュ」で話題となった「バンク」という会社。

メッセンジャーを通して亀山さんから光本さんへこのように買収を持ちかけたそうです。笑

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http://thebridge.jp/2017/11/cash-running-company-bank-joined-dmm-groupyより)

 

 

軽い…!!軽すぎる!!

私も当時はこのニュースに驚きを隠せませんでした。

非上場のオーナー企業とはいえ、70億円の買収案件をこのような形で持ちかけるとは、、普段M&Aの仕事に携わる者としてなかなかの衝撃を受けたことを覚えています。

しかも、DDの算定結果によると、買収当時のバンクの企業価値は数億円程度だったとのこと。

事業が成長しない限り数十億円レベルの損失が出てくるのに、、亀山さんは光本さん率いるバンク(あるいは、光本さんという人間)に相当惚れ込んだのでしょう。

 

 

突如の買い戻し

しかし今日、買収からまだ1年しか経っていないにも関わらず、DMMはバンクを光本氏に全株式を売却すると発表しました。

jp.techcrunch.com

 

しかも、売却金額は5億円。買収金額が70億円だったので、DMM側で約65億円の損失が確定したということです。

 

ちなみに、この1件をうけて「65億円も奪い去るなんて、光本氏は詐欺師だ」的な意見をちらほら見ましたが、実質的な価値が数億円の会社を70億円で買うことを決めたのは亀山さんであり、買い戻し金額も企業価値と照らして適当だと考えられることから、光本さんに追及されるべき責任は基本的にありません。

もちろん、DMMに損をさせてしまう結果となったので、亀山さんとの関係に少し陰りが生じたりとかはあるでしょうが、それは周囲には関係のないことですよね。

  

いずれにせよ、DMMからすれば投資の失敗であったことは確実でしょう。

買い戻し金額の5億円という金額からしても、買収時からあまり成長できていないことが窺えます。

亀山さんも、「敗軍の将、全てを語らずです」というツイートをしていることからも、事業があまり軌道にのっていないのは事実であるように思えます。

 

 

「キャッシュ」のビジネスモデル

まず、キャッシュは、利用者がアプリ上で不用品を撮影すると、すぐに幾らで買い取ってくれるかを査定してくれて、利用者がその査定金額に納得すればすぐに査定金額分の現金が銀行口座に振り込まれるというサービスです。

その代わり利用者は、査定した不用品を2週間以内にバンクへ発送する必要があります。ただ、自分で発送しにいく必要はなく、集荷情報を入力したら業者が集荷してきてくれるようになっています。

利用者からしたら結構いいですよね、このサービス。

なにしろ、断捨離することで即時現金化することができるし、また、自分でコンビニや郵便局へ持ち込んで発送する必要がありませんから。

 

 では、なぜバンクの事業は不調なのでしょうか?バンクの主要な事業である「キャッシュ」のビジネスモデルと一緒に考えてみます。

 

f:id:sy-11-8-yossamaaaa:20181107221505p:plain(筆者作成) 

まず利用者が不用品の査定を申し込む(①)と、数秒で査定が実施されます(②)。

その金額で合意すれば、その日のうちにバンクから利用者の銀行口座に現金が振り込まれます(③)。

 

そこから2週間以内に、利用者は査定対象の不用品をバンクへ送ります(④)。

この際、発送しない代わりに現金を返還できますが、利用者のほとんどは不用品を発送するそうです(ちなみに、当初は現金を返還する際に15%の手数料がかかりましたが、現在は手数料ゼロで返還できます)。

バンクは受け取った不用品を、第三者へ売却することにより、代金を回収します(⑤)。売却先は明らかにはされていませんが、日本もしくは海外にしっかりとした販路が確立されているのでしょう。

 

さて、このビジネスでの儲けのポイントはどこでしょうか?

バンクとしては、現金を返還されてしまった場合、利益を得ることはできません(手数料を撤廃したため)。

そのため、基本的には上図の③と⑥の差額で利益を得ることになります。

ということは、ビジネスモデル上、儲けるためには査定金額をなるべく下げる or 販売先へできるだけ高く売る必要があるということです。

  

また、上図を見ていただければ分かる通り、バンクは利用者に先に現金を払う必要があるため、ある程度資金を社内に確保しておかなければ成り立ちません。

ただ、ある程度の資金を保有していたとしても、予想外に急に多額の振込申請がきた場合には資金ショートしてしまう可能性もあります。

そのため、キャッシュのサービスは個人個人に買取上限額を設けており、また、サービス全体の1日の買取上限額を1,000万円としています。

つまり、このように資金需要に上限を儲けることで資金ショートしてしまう事態を回避しているということです。

 

実際に査定してみた

さて、上図③の査定金額が低ければ低いほど、バンクとしては儲かると。であれば、実際の査定金額はどれくらいになるのだろう・・・???

気になったので、実際に試してみました。笑

 

まず、2ヶ月前に購入した以下の相棒ちゃんを査定してみました。

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本体価格:75,384円(税込)

iPad Pro2 10.5インチ(64GB Wi-fiモデル)

 

2ヶ月前に買ったのもあり、状態はかなりいいので、そこそこ自信はありました。

ということで、コンディションは4つ星(ほぼ新品)にして写真を撮り査定。

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!?!?

30,200円やと!?

 

買って2ヶ月で半額以下に、、メルカリだと5万円以上では売れそうだというのに、、流石に安すぎない?となりました。笑

まあとはいえ、これは恐らく先日最新型のiPad Proが発表されて、旧型のiPadが中古市場で供給過多になっているからに違いない。

そう思い、先々週購入したロンハーマンのパーカーも査定してみました。

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購入金額:24,000円くらい。メルカリでは6,000円くらいでは売りたいところ。

結果はいかに・・・!!

 

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・・・ 

 

なるほど。

キャッシュでは、査定金額を相場よりもだいぶ下げて表示しているようです。経験上、メルカリやラクマだともう少し高い価格で売れるはずなので。

相場より下げているのは、恐らくバンクが以下のリスクを一方的に負っているからでしょう。

 

①商品を出品しないリスク

②送ってこられた商品がニセモノもしくはかなり状態が悪いリスク

 

このようなことは、ビジネス上一定の割合で必ず発生します。

そして、そのリスクの大きさは人それぞれ違います。

 

バンクは、査定金額は人それぞれ異なる旨を述べていることから、

サービスの利用回数が多く、毎回きちんと申告通りの状態の商品を期限内に送ってくれる信用度の高いユーザーに対しては、比較的高い査定金額を提示し、

逆に利用回数が低く信用度がわからない、もしくは過去に状態の悪い商品を送ってきたり発想が遅延したりして信用度が低いユーザーに対しては、査定金額を低く提示しているということです。

 

私の査定金額が想定よりだいぶ低めにでたのも、私が初めて利用するユーザーだったからでしょう。

貸倒リスクの高い人は借入時の利率が高く、逆に高収入で貸倒リスクの低い人は利率が低いのと同じ原理ですね。

 

なぜバンクの事業は不調なのか?

先ほどの信用管理の影響を考慮したとしても、売上高の数%は貸し倒れると考えられるため、再販売時にどれくらいの利益を乗せて売っているのかはわかりませんが、恐らく貸倒損失考慮後の粗利率は数%程度なのでしょう。

不良品であった場合は、粗利ベースで損失となってしまうことも考えられることから、相当程度低い粗利率であることが考えられます。

 

そんななか、バンクでは従業員もこの1年間で6人から60人まで増えたといいます。

ということは、それなりに人件費負担も増えたと言うこと。

60人の平均給与が日本の平均年収である420万円だとしたら、年間の人件費は約2.5億円。そのほかの費用も考慮して販管費合計が3億円だったとすると、それ以上の粗利を確保しないと営業損失となってしまいます。。

 

先述した通り、キャッシュでは1日の買取上限金額を1,000万円としています。つまり、1年間の買取上限金額は36.5億円。

毎日上限までいくとは考えにくいので、年間の買取金額が30億円だとしたら、、だいたいキャッシュの粗利率は10%程度確保しないと赤字になってしまうような気がします。決算数値が一切見れていないので、あくまで雑な推測にしか過ぎませんが…

(ちなみに、バンクが運営しているもう一つのサービス「トラベルナウ」については、まだリリースから間もないことから、一旦ここでは考慮していません。)

  

そして、恐らくバンクはまだ粗利率10%は確保できていない。

そのため、DMMによる買収後も赤字続きで、どのように評価しても企業価値は数億円のままであったことから、5億円で買い戻されることとなったのでしょう。

  

となると、バンクとして現状何をやるべきなのかというと、とにかくユーザー数を増やすことなのかなと。

そのためには、信用管理のレベルを上げて査定金額をもう少し高めることで、ユーザー満足度を高めていく必要があります。でないと、今の査定金額だと、そこまで即時に現金化したいわけではない人は「なんだ、じゃあ、メルカリで売ろう」という発想になってしまう可能性が高いからです。

そして信用管理のレベルを上げるためには、これからもっと投資が必要になると考えられます。

 

光本さんはDMMへの売却によりまとまった資金を手に入れ、また今回の買戻しでバンクの経営権に関する自由を獲得しました。積極的な投資を行う環境としてはかなりいいのではないのでしょうか。

私個人としては、これを機に大胆な投資を行なっていくことで、バンクが今後益々サービスレベルを上げて行ってくれることを楽しみにしています!!

 

 

ということで、本日も最後までお読みいただきありがとうございました。