会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

減損した会社の株は買うべし?

2016年3月期の決算発表で、三井物産等の大手の商社が1000億円超の減損損失を計上すると発表し、一部の業界ではその話題で持ちきりだったのは記憶に新しいことでしょう。原油やニッケルの価格下落により、資源に巨額の投資を行っている大手の商社はこの減損という痛手を被る結果となりました。

 

 

しかし皆さん、この減損っちゅうもんが一体何なのかご存知ですか?ニュースを見てても、減損が会社の業績に大きな悪影響を及ぼすことは一目瞭然です。でも、だからといって「減損=最悪」っていうイメージを持つのはあまりよくないでしょう。なぜなら、減損は、視点を変えれば良い面もあるからです。まず、減損がどういうもので、どういうときに生じるのかを簡単に説明したいと思います。

 

 

大手の企業が何か新しい事業を始めるときは、何らかの設備、つまり固定資産に投資します。そしてその設備は機械だったり建物だったり、複雑なシステムだったりと業種によって様々です。そしてその投資された固定資産は、基本的に貸借対照表上は「取得原価ー減価償却累計額」で評価を行います(IFRSでは時価評価も選択できます)。これはなぜかというと、売るつもりのない固定資産を時価評価するのは理論的におかしいからです。そりゃそうですよね。10年で稼働させることを目的として1,000万円で購入した機械が、翌年時価が500万円に落ちただけでその評価額が500万になるのは明らかに会社に酷だし、財務諸表が実態を表さなくなります。

 

 

しかし、この機械が本当に全く稼働しなくなったりしたらどうでしょう。

 

 

例えば、ベトナムで新規事業を始めようとして10億円を投資して工場を建てたとします。しかし、ベトナムの経済がかなり悪化してベトナムでの事業は続けられない状況となり、工場がストップしたとしましょう。この工場は全くキャッシュを生めなくなりますよね。逆に、それなのにずっと工場を10億円で評価し続けるのはどう考えてもおかしいですよね。固定資産の帳簿価額は、将来回収されるキャッシュインフローの合計をある程度反映していなければならないのです。

つまり、大手の商社勢は、自ら投資した金額を回収できる見込みがないと見て減損損失を計上したのです。

 

 

ここで考えていただきたいのが、減損を行った後のことです。耐用年数10年の10億円の固定資産を購入したとすると、定額法なら普通は毎年1億円減価償却費として費用計上しなければならなくなります。

しかし、ここで5億円の減損を計上したとしましょう。そしたら帳簿価額は5億円になるのだから、毎年の償却額は半分になります。つまり、減損後は会社の償却負担が軽減されるのです。だから、ほとんどの会社は減損がでるとわかったら、とことん減損を計上したがる。そしたら膿ができって、その後の経営が楽になるからです。ROA総資産利益率)も良くなりますしね。

 

 

これを知っているので、アメリカの凄腕の経営者とかは、ヘッドハンティング先の企業でまず大量に減損を計上するそうです。そしたら、就任当初の業績が悪くなっても、何も起こらない限りその後の業績がよくなっていくので、その経営者の手腕が高く評価されるということです。

 

 

そして、もう一つ重要なのが、IFRSは減損の戻入れを認めているということです。投資金額の回収が見込めなくて減損をしたとしても、将来また復活して投資金額を回収できる見込みができてきたら、過去の減損を取り消す、つまり利益を計上することができるのです。そこで、以下の点を考えてください。

 

①今回話題になった商社はIFRSを適用している

②減損を計上した主な理由は、資源価格の下落

 

 

資源価格なんて、今は低くてもいつか絶対に戻ります。安いうちに買っとこうと誰かが思って買い始めたら、連鎖的に同じようなことを思う投資家が増えて、急騰するからです。ということは、一旦は減損したビジネスが再生する可能性が非常に高い。資源価格が上がればまたキャッシュを生み出すからです。

そこで、大手の商社はIFRSを適用している。そう、戻入れの計上が認められているのです。ということは、資源価格が好転したときは、本業の業績がよくなる上に減損の戻入れという利益が計上されるのです。

 

 

論より証拠。以下では実際の商社の株価の流れを見ていきます。

今回は、2016年3月期の決算発表で巨額の減損損失計上予測を発表した三菱商事を例に見てみましょう

 

上記の発表があったのは2月で、その発表により株価は下落しました。

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しかし、その後また持ち直しているのがわかりますよね。実際の決算発表が行われる頃には、株価は500円程も戻しています。以下が実際の期末の決算です。

 

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そして、1Q決算発表前にまた株価は上下しますが、1Qの決算での減損損失の金額が期末と比して少額だったため、結局また上昇し、現在に至ります。

 

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つまりどういうことか。

減損という発表があったときに、売るのではなく長期的な視点を持って買った人が、利益を得ることができたということなのです。大手商社の財務諸表を見てもわかるように、こういう会社が減損したとしても倒産とか深刻な経営難になる可能性はかなり低いとわかれば、一見リスキーと思える行動にも踏み切れたかもしれません。

 

 

もちろん、今後株価がどうなるか分かりませんが、投資をするにあたって取得価額は安いに越したことはないため、減損の性質をよく知り、また長期的な視点を持ってものごとを見据える能力に長けている人は、世間が減損減損と騒いでいる間に買っていたということでしょうね。将来持ち直して利益をまた計上する可能性が高いですしね。

こう考えると、会計の知識って改めてバカにならないと思いました。もっと勉強しないと。

 

 

今日の内容は投資の話もしていますが、このブログの話に乗って売買をするのだけはやめてください。あくまで考えのひとつとして見ていただけたらと思います。僕の話が正しいとは限らないし、株価が今後どうなるかなんて予測できる人はこの世に一人もいないので。

 

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。