マネーフォワードの決算を分析してみた
2017年9月29日、家計簿アプリで有名な「マネーフォワード」が東証マザーズに上場を果たしました。
マネーフォワードは2012年5月に設立された会社なので、設立から5年というかなりのハイスピードでの上場です。この上場時の公募増資によって、マネーフォワードは約23億円の資金調達を完了しています。
今日はこのマネーフォワードが、財務面から見て将来性があるか、特に問題を抱えていないかどうかについて検討してみたいと思います。
①マネーフォワードの事業
マネーフォワードは、一見家計簿アプリだけを展開しているように思われがちですが、実はBtoCビジネスだけでなく、BtoBビジネスも手がけています。それが、クラウドサービスあり、所謂クラウド会計ソフトの販売事業を会計事務所や中小企業に展開しています。
クラウド会計は、人工知能による自動仕訳やマルチデバイスでの利用、経費迷彩の自動取得等の機能があることから、確定申告や決算資料の作成にかかる手間暇が大幅に削減されるということで、注目を浴びつつあるFinTechの一種です。
(マネーフォワードHPの「成長可能性に関する説明資料」」より)
マネーフォワード自身のアンケート結果によると、確定申告にかかる時間が約5分の1まで削減されたそうです。
ただ、満足度が非常に高いかと言われると、まだまだ「ややそう思う」という回答が多いことから、まだまだ改善の余地もありそうです。
(マネーフォワードHPの「成長可能性に関する説明資料」」より)
このBtoBビジネスに加え、皆さんお馴染みの家計簿アプリ事業、通称PMF (Personal Financial Management)事業も手がけています。今や家計簿アプリとしては国内でトップシェアとなっており、マネーフォワードで一番中心的な事業と言えるでしょう。
また、お金に関するセミナー等のイベント等も手がけており、今後事業ポートフォリオを拡大していく方針であることがマネーフォワードより公表されています。
②非常に大きい広告宣伝費
下図は、直近の決算期である2017年11月期の第3四半期報告書における損益計算書です。
売上高:19億円
売上総利益率:13億円(粗利率約68%)
営業損失:△7億円
四半期報告書からは期間推移を見ることができないので、マネーフォワードのHPで公表している「成長可能性に関する説明資料」から抜粋した売上高推移を見て見ると、
このように、ベンチャー企業らしい倍々成長を繰り返していることがわかります。
家計簿アプリだけでなく、クラウド会計の事業が大きく伸びたことが影響しているのかと思います。
一方、これは上場したての若い企業によく見られますが、営業損益は大赤字となっています。
特にベンチャー企業の場合、これを見て一概に業績が悪いと判断してはいけません。将来への先行投資を実施しているがために一時的に損失が生じている可能性があるからです。
そこで、マネーフォワードの営業損益が大きく赤字になっている原因を探ってみると、大量の広告宣伝費が主要な原因であることがわかりました。
下図は、マネーフォワードが公表している第3四半期決算説明資料です。
これを見ると、連結損失7億2,000万円のうち、7億1500万円は広告宣伝費であることがわかります。
つまり、広告宣伝費がなければ、赤字はほとんど出ていませんよということです。
マネーフォワードによると、この広告宣伝費は時間をかけて回収されるから、将来的には利益が出るよと説明しています。
たしかに、アプリとかクラウド会計のようなサービスは、便利さを知ってもらうことからがスタートです。なので、今は多少利益が痛んでも仕方ないけど、ネットワーク外部性を生かしながら倍速的に成長していくことを目論んでいることが考えられます。
③増資によって手に入れたお金の使い道
マネーフォワードは、上場時の公募増資に加え、本日2017年11月1日、SMBC日興証券に548百万円の第三者割当増資を実施しています。これにより、上場時からマネーフォワードは約23億円のキャッシュを手にすることになります。
直近期のBSを見ると、やはり現預金が総資産のほとんどを占める状況となっています。
この大量に保有している現預金の使い道は何なのか?
マネーフォワードのHPから探って見ると、その資金使途が記載されていました。
これを見ると、やはり広告宣伝費が大きいことがわかります。面白いのが、その推移です。
平成28年11月期(実績):641百万円
平成29年11月期(計画):54百万円
平成30年11月期(計画):453百万円
平成31年11月期(計画):803百万円
平成29年度はほとんどお金をかけていませんね。これはおそらく、上場のニュースが十分に宣伝効果を有することから、赤字垂れ流しのときにわざわざお金をかけて広告宣伝費をかける必要はないと判断されたからでしょう。
また、平成30年期に人件費及び採用教育費を大幅に増加させることを見込んでおり、かつ平成31年に前年の2倍の広告宣伝費をかけることを計画していることから、おそらく現段階で考案している新サービス等が平成31年期に完成することを予定しているのではないでしょうか。平成30年はその新サービスの開発に必要な人件費や採用教育費が増加することが見込まれていることだと予想します。
④欠損填補
マネーフォワードは、創業以来毎期連続で赤字を出しています。
そうなると、BSの純資産の部に表示される過去の利益の累積である、「利益剰余金」は相当痛んでいると思われます。
下記は、新規上場時の有報における過去の主要な経営指標の推移ですが、当期純損失の累積は約△27億円なので、直近の利益剰余金もそれくらいマイナスになっているはずです。
しかしこれが、実際に見て見るとちがいます。
17年11月期の3Q末時点での利益剰余金は、△7.4億円となっています。
あれ?と思いますよね。実はこれ、15年11月期と16年11月期の単体BS、PLを見て見ると、答えがわかります。
15年11月期の利益剰余金は△1,807百万円です。
そして、16年11月期の当期純損失は△888百万円なので、16年11月末の利益剰余金は△2,695百万円となっているはずが、△888億円となっています。
そして、資本剰余金は15年11月期から16年11月期で1,397億円減少しています。
これが何を意味するかというと、マネーフォワードは欠損填補を行うことにより、マイナスの利益剰余金を毎期0に戻しているのです。
欠損填補は、利益剰余金がマイナスになっているときに資本剰余金から振りかえることを指します。別にそれで何かが大きく変わるってわけではないのですが、おそらくBSの見た目を気にしているのでしょう。
しかも、マネーフォワードは資本金を減少させる、「減資」も行なっています。
原資を行うためには、株主総会の特別決議、つまり株主の3分の2以上の可決が必要という厳しい要件をクリアしなければなりません。
それだけ資本金が株主にとって重要なものだと会社法では考えられているのです。
また、資本金から直接利益剰余金に振り返ることはできないので、一旦資本準備金に振り替えてから、利益剰余金に振り替えているのです。
これはおそらく、将来の配当原資を貯めるために行なっていることだと思いますが、将来広告宣伝費を回収して利益を出していく自信があるのなら、何も資本金にまで手を出さなくても、、、とも思ってしまいます。
以上をまとめてみると、
・売上高は倍増しているが、広告宣伝費の影響で、毎期大赤字を出している
・広告宣伝費と人件費の計画値からみて、2019年11月期に何か新サービスをリリースする可能性が高い
・欠損填補を行うことにより、利益剰余金のマイナス額を抑えようとしている
人件費と違って広告宣伝費は裁量が効くため、本当にやばいときは広告宣伝費は抑えることができます。
ただ、マネーフォワードは2018年11月期に勝負に出ようとしていると思われます。人件費と採用費をかけて新サービスをリリースし、2019年11月期に広告宣伝費をかけまくって一気に成長しようとしているはずです。
このように、恐らくこの数年で勝負をしかけてくる可能性が高いので、あとはその勝負が功を奏するかどうかが今後成長するかどうかにかかってきます。
もしその勝負が成功すれば大きく成長するだろうし、頓挫すればキャッシュも枯渇してしまい、今後しばらくは大きな投資はできなくなってしまうのではないでしょうか。
今後、どんな成長を見せてくれるのか是非期待したいところですね。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。