会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

結局のれんとは何なのか

先日、日経新聞で以下のようなことが報じられていました。

 

www.nikkei.com

 

この記事を読むだけだと、IFRS適用企業がのれんを償却しなければならなくなる可能性が高いように思えてしまいますが、実際はIASB内で再検討され始めたにすぎず、実際にのれんの償却が再び導入される可能性は低いのではないかとのことです。

 

こういう記事が日経の一面に載って話題になると、「結局のれんって何なの??」って思われる方もいるかと思います。ということで今日は、のれんとは結局何なのか、ということについて簡単に説明してみたいと思います。

 

 

買収価格の決まり方

のれんは、企業の組織再編や事業譲渡の結果として発生するものです。組織再編とは一般にM&A(Mergers and Acqusitions)と言われますが、大まかに以下のような取引のことを言います。

 

・株式取得

・合併

・会社分割

株式交換

・株式移転

 

最も馴染み深いのは、俗に企業買収と呼ばれる「株式取得」ではないでしょうか。

一般的に「買収」というと、この株式取得のことを指します。

なので、今回は株式取得を例にとって説明してきます。

 

 

 

まず、上場企業がどこかの企業を買収しようとするときは、ほとんどの場合、証券会社や投資銀行等の金融機関に買収先企業の候補を探してもらうことから始まります。

もちろん買手自身で探すことはあるのですが、金融機関には「うちの会社を売りたい」とか、「この事業を切り離したい」等の情報が日々流れ込んでおり、売手候補会社のリストが存在するため、買手の会社は自ら会社を探すよりも金融機関に候補会社等の条件を提示した上で最適な会社を探してもらう方が効率的に買収先候補の企業を決定することが可能なのです。

 

 

そうやって最終的に買収先の会社(業界では、「対象会社」や「ターゲット」と呼ばれる)が決定されると、次にこの会社を幾らで買うのか、についての検討が始まります。

買収価格の決め方は、ターゲットが上場企業かそうでないかによって大きく変わってきます。

 

 

まず、ターゲットが上場企業である場合は、基本的に現在の現在の株価に程度のプレミアムを乗せた価格を元に買収価格を決定します。

例えば、現在の株価が2,000円の場合、30%のプレミアムを加えた2,600円に買取数量を乗じて買収価格が決まるという具合です。

 

 

上場企業の場合は不特定多数の株主が存在するため、上場企業を買収しようと思ったらこの不特定多数の株主から株式を売ってもらう必要があります。

そのため、日本国内で上場企業を買収するときは「公開買付(TOB)」という方法によって既存株主に

「この価格(募集価格)で買い取るので、それで売ってもいいという人は申し出てください〜」

という旨の募集を行うのですが、募集価格が現在の株価よりも低かったらどうなるでしょうか??この募集に応じる人なんてほとんどいませんよね。

なので、ターゲットが上場企業である場合は、基本的には(株価+プレミアム)×買取数量 という算式で買収価格が算定されます(もちろん、DCF等による計算も行いますが)。

 

 

 

これが非上場企業の場合は異なります。

上場企業のように客観的に会社の価値を決めることは難しいので、非上場企業を買収する際は一般的に以下のように買収価格が決められます。

 

①当事者の言い値で決められる

②株主価値の評価に基づいて決まられる

 

非上場会社の場合は、株主は特定少数しか存在しないため、変な話その株主が納得する価格であれば幾らで買ってもOKということになります。

ただ、ターゲットの規模がある程度大きい場合には、しっかりと価値算定を行ったうえで買収を行うのが一般的です(今日は、企業価値の算定についての説明は割愛します。)

 

 

 

 PPAとは

こうやって買収価格が決められると、次に「取得原価(買収価格)の配分」という作業が行われます。

これは一般的にPPA(Purchase Price Allocation)というのですが、PPAにより買収価格を資産と負債に配分していきます。

買収価格を配分って言っても意味不明だと思いますが、要はターゲットの資産と負債をひたすら時価評価していく作業だと思ってください。

 

 

不動産鑑定によって不動産の時価を算出したり、

財務諸表には載っていない、顧客リスト等の無形資産の価値を算出したり、、

 

こんな感じで、通常の貸借対照表とは別の、時価ベースでの貸借対照表を作成します。

こうして、買収金額と時価ベースでのBSにおける純資産の差額として、「のれん」が初めて計上されることになるのです。

参考までに、絵心ゼロの図を描いてみました。

 

f:id:sy-11-8-yossamaaaa:20180915231354j:plain

 

 

簡単にいうと、のれんは、「特にこれ!というのは言えないけど、買手が価値と考えている部分」のことです。

よく、「目に見えない価値=のれん」と思われがちですが、目に見えない資産の中でも特定可能な価値は無形資産として特定されるので、厳密には違います。

 

 

時価純資産額よりも高い価格で買っているので、その分買い手はシナジー効果等のなんらかの価値を見込んでいるものです。

その、なんらかの価値というぼんやりしたものをのれんというのです。

 

 

 

 のれんは償却すべき??

さて、日本の会計基準では、こののれんは20年以内の期間で償却されます。

一方IFRSではのれんは償却しないでよいことする代わりに、毎期のれんの価値が毀損していないかを確認する「減損テスト」の実施を求めています。

 

 

 

今回IFRSでのれんの償却が検討されたのは、「減損テスト」に対する経営者からの反対意見が非常に多くあったことがきっかけだと考えられます。

明らかに買った会社の事業が好調な場合でも減損テストを実施しなければならないし、これを毎期求めるのは非常に会社としては負担となっていたようです。

実際、多くの海外の経営者は「のれんの減損なんて何の意味があるんだ?事業の収益性の悪化というものは既に株価等に織り込まれているものであって、それを事後的にのれんの減損という形で投資家に知らせても遅すぎるのではないか??」と思っているのだそうです。

https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/pdf/2014/04/impairment-qa.pdf

 

 

個人的に、のれんの減損テストを毎期求めるのは酷だと思いますし、そもそも価値の毀損が明らかになるまで費用化しないというのはどうも理にかなっていないような気がします。

IASB的には、のれんの償却を認めた場合は償却年数等を恣意的に決定することができるため不公平だ、という反対意見を持っているのですが、償却年数を縮めること自体は保守的だし、そもそも減損テストにも見積もり等の恣意性が多分に介入するはずなのに償却年数を見積もることは認めないっていうのは少しおかしいような気がするんですよね。。

 

 

でも、かといって一時に全額費用化するのは明らかにおかしい。

 

 

そのため私は、一定期間以内での償却を求めながらも、価値が毀損している可能性が高い場合に減損テストを実施する、という日本基準の会計処理が一番いいのでは??と考えています。

まあ、とはいっても例えばブランド価値みたいに、長期間をかけて価値が増大していくような場合もあるし、のれんの償却負担を嫌ってM&Aの数が鈍化してしまうこともあるので、一概に償却するのはおかしいという意見も頷けるのですが・・

 

 

 

結局、のれんというものは個々の企業によって全く異なるぼんやりしたものであり、そういうぼんやりしたものに対して一律の会計処理を定めることはそもそも無理がある、ということですね。

今後IASBがどのような結論を出していくのか楽しみです。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。