会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

アマゾンのキャッシュ・フロー経営

先日、遂にアップルに続いてアマゾンの株価が1兆ドルを突破し、フォーブスの世界長者番付2018でも、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスが世界一の金持ちとして認定されました。

もはや、日本人でアマゾンを一度も使ったことがない人は珍しいのではないのか?というくらい日本にも浸透しているアマゾンですが、一体なぜこの会社がここまで成長することができたのでしょうか??

今日は、そのからくりに会計的視点から迫ってみたいと思います。

 

意外と少ない営業利益

いきなりですが、これだけの急成長を遂げているアマゾンです。さぞ莫大な利益が出ているのでは??と思ってしまいがちですよね。

かくいう私も、初めてアマゾンの決算書を見るまでは、利益率は比較的高いのではと思っていました。

 しかしこれが、実際に見てみると意外とそうでもないのです。

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これはアマゾンの2015年12月期〜2017年12月期までのPLですが、Operating income、つまり営業利益を見ると、売上高と比較して意外と小さいことが分かります。

実際に営業利益率を見ても、約2%~4%くらいで推移しており、決して利益率の高い会社であるとは言えない水準になっています。

 

とはいえ、全世界で様々なモノ、サービスを売っているアマゾン。一概にこの数値を見てもあまりイメージが湧かないので、セグメント別の売上高と営業利益を見てみましょう。

 

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これは2017年12月期の数値ですが、

 

・アメリカ以外の国では、結構赤字がでてる

・AWSの利益率が圧倒的に高い

 

ということが分かります。

海外事業が儲かっていないのはアマゾン自身も認めていて、アマゾンのAnnual Reportには

「まだまだ進出コストが色々かかるから、海外では儲からないことはわかってる。」

という旨のことが書かれています。

アマゾンプライムの年会費も、アメリカは100ドルを超える一方で日本は3,000円代とかなり安くなっていますし、海外の物流網を開拓していく段階ではそれなりにコストもかかるので、仕方がないと言えば仕方がないのでしょう。

 

 

一方、AWSは非常に儲かっています。AWSは、企業向けのクラウドコンピューティングサービスのことです。

BtoBなので、そもそもアマゾンがクラウドサービスを提供していること自体知らなかったという方も多いかもしれません。

簡単にいうとこのサービスは、アマゾンが用意するAWSという巨大なサーバーをあらゆる企業にクラウドで提供する、というものです。企業からすれば、わざわざ自社内でサーバーをイチから開発して運用しなくても、それよりはるかに安いコストで高性能なシステムが使えるようになるので、メリットがかなり大きいようです。

 

 

調べてみると、クラウドのサーバーは巨大であればあるほど、維持コストが安くなるとそうです(私、ITに関する知識が拙いもんで。。笑)。

アマゾンの場合、世界中にサービス展開を行なっているため、例えば、日本がサーバーをほとんど使わない深夜帯に、時差のあるニューヨークでフルに利用される、といった具合に、サーバーをフル活用することができることから、コスト比率も改善するそう。だから、AWSはここまで圧倒的に儲かるようになっているのだとか。

 

 

ただ、これだけAWSが利益貢献しているとはいえ、会社全体としての営業利益率が数パーセントしかない事実は変わりません。

そう考えると、「こんな利益率でちょこちょこ儲けているのに、ここまで急成長しているのはなぜ??」という疑問が浮かびます。その秘訣は、最近世間でよく言われるようになった「キャッシュ・フロー経営」を徹底しているところにありました。

 

 

PL脳に全く侵されないアマゾン

アマゾンのアニュアルレポートを見ると、アマゾンの財務戦略はとにかく「フリー・キャッシュ・フローの最大化」であることが分かります。

財務諸表の順番も、普通キャッシュフロー計算書は最後に記載されるのに、アマゾンは先頭に記載しているくらいです。

では、そんなアマゾンのキャッシュ・フローの流れはどのようになっているのでしょうか?

過去10年のキャッシュの動きを、営業CF、投資CF、財務CFに分けてグラフ化してみました(単位は百万ドル)。

 

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2017/12期は、アメリカの大手スーパーマーケット「ホールフーズ・マーケット」を買収していることから特に投資CFがマイナスとなっていますが、この分は銀行借り入れでカバーすることで、現預金残高の増加を維持しています。過年度から順調にキャッシュが増えていることが一目瞭然です。

 

そして驚くことに、営業CFは過去10年連続でプラス、逆に投資CFは過去10年連続でマイナスとなっています。

これがどういうことを意味するかというと、アマゾンはとにかく本業で稼ぎまくったカネを、新しい物流倉庫等の設備投資や買収にガンガン回している、ということです。

 

 

アマゾンは、イーコマースではあるものの、

 

商品の仕入

保管

物流

販売

 

という仕入から販売までを基本的に自前で行なっています。

その活動拠点を広げるために、とにかく世界中で倉庫を買いまくっているのです。

もちろん、こういった倉庫への投資だけでなく、システムへの投資も行っています。

 

 

日本はPLを重視する文化があるため、こんな感じで儲かったカネをどんどん設備投資にまわしてしまうことは躊躇されがちです。

なぜなら、設備投資が増えると、その分減価償却費の負担が大きくなってPLの利益が圧迫されてしまい、投資家からのウケもあまりよくない(つまり、減価償却を上回るリターンが得られない投資は敬遠されてしまう)からです。

そのため、例えばキーエンスなんかもそうですが、とにかく日本で営業CFが十分に儲かっている会社は、PLの利益を気遣うばかりに、儲かったカネの多くを留保しがちになる傾向があります。(もちろん、これを一概に悪いというのは間違いですが)

最近では、こうやって目先のPLばかり気にしてしまうことを「PL脳に侵されている」と呼ばれるようになりましたね。

 

 

しかし、アマゾンは違います。減価償却費によるPLの数字なんてほとんど全く気にしていないと言っていいでしょう。

要は、キャッシュ・フローを重視しているアマゾンからすれば、キャッシュの流出が伴わない減価償却費によりPLの数値が多少悪くなったところで全く問題にすることはないということです。

そういう意味で、アマゾンはPL脳に全く侵されていない会社である、と言えるでしょう。

 

 

 

マイナスのCCCって?

ここまで読むと、「アマゾンはPL脳に侵されていない!!素晴らしい!!」と思ってしまいそうになりますが、実際に本業で儲かる、つまり営業CFが大きくプラスになっていないと結局は意味がありません。

この点、前述のとおりアマゾンの営業CFは10年連続でプラス、しかも右肩上がりという状態になっています。

なぜここまで本業で儲けることができているのでしょうか??

その答えを紐解く手がかりのひとつに、マイナスのCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)というものが考えられます。

 

 

CCCとは、売上債権回転期間+棚卸資産回転期間ー仕入債務回転期間で算出されます。

 

売上債権回転期間:売上債権÷売上×365日(大体何日間で売上金が回収されるか)

棚卸資産回転期間:棚卸資産÷売上原価×365日(大体何日間で棚卸資産が売れるか)

仕入債務回転期間:仕入債務÷売上原価×365日(大体何日間で仕入代金を支払うか)

 

 

通常のビジネスでは、

仕入→販売→売上金回収 

という一連のプロセスがあります。

 

 

そして、仕入から販売までが棚卸資産回転期間、

販売から売上金回収までが売上債権回転期間にあたる。

つまり、棚卸資産回転期間と売上債権回転期間の2つが短ければ短いほど、仕入れてから入金されるまでが早いということ。

CCCがマイナスということは、仕入代金を支払う前に、売上代金を回収できちゃうということです。

 

 

この状態が起こると、何が起きるでしょうか??

基本的には、手元にキャッシュを用意する必要がなくなります。

なぜなら、売上代金で仕入代金を賄うことができるから。次の仕入代金支払のタイミングが来るまで、アマゾンは売上金を無利息で自由に使うことができるということです。

 

 

売上金額と仕入金額がずっと一定の場合は、手元のお金が増え続けるわけではありませんが、売上金額と仕入金額がともに増え続けている場合は、それに伴って手元のお金もどんどん増えていきます。

だから、必然的に売上高が成長しているアマゾンでは、それにともないどんどん手元資金が増えていくのです。

 

ちなみに、売上高が増えても手元のお金が増えない例として、以前書いたRIZAPの記事が参考になるかと思います。

sy-11-8-yossamaaaa.hatenablog.com

 

 

 

また、アマゾンと同じように、成長企業でCCCがマイナスとなっている日本の会社として、メルカリが挙げられます。

メルカリも、売上金を再利用できるようなサービスを積極的に提供してユーザーからの売上金の振込申請を遅らせることにより、仕入債務の回転期間を長期化することでCCCをマイナスとしています。これにより、現預金がどんどん増えていく状況となっています。

(メルカリについても下記記事を以前寄稿したので、ぜひご参考まで)

maonline.jp

 

 

 

 

このような事実から、

「じゃあなぜアマゾンはCCCがマイナスなのか?」

「イーコオマースの事業は売上債権の回転期間が短期かする傾向にあるのか?」

「アマゾンの仕入債務の回転期間が長いのは、やはりサプライヤーに対する交渉力が強いのか?」

など色々な仮説を立てることができます。そうやって会計からビジネスの仕組みを紐解いていくのって、結構面白いですよね。そこをどうやって紐解いていくのかが会計士としての腕の見せ所だと思うので、私ももっとこのスキルを研鑽していきたいと思っているところです。

 

 

 

これからどうなる??

もうすでに世界中で、アマゾンを手放すなんて考えられない!!って人がたくさんいるかと思います。

そんなとき、突如アマゾンが世界中のプライム年会費をアメリカの水準に合わせられたとしたら、、、プライム会員を辞める人もいるとは思いますが、それをはるかに上回る人が「今更プライム会員やめらんねぇ、、!!」と思うでしょう。

そうなると、それだけで海外事業セグメントの利益も大幅に良化することが考えられます。

また、どこか全然異なる事業を営んでいる会社を買収して、どんどん新領域に進出していく可能性だってあります。

 

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このアマゾンの株価チャートを見ていると、もうさすがに高すぎるやろ!!と思ってしまいそうですが、これだけの将来性を考えると、まだ実は買い時なのかもしれませんね。こればかりはわかりませんが。笑

 

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。