会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

監査業界の先行き

今日の日経新聞で、日本における監査の品質が問われる記事がピックアップされていました。

 

www.nikkei.com

また、下記の記事では、監査法人トーマツに勤務している人が予備校テキストを印刷して周りの同僚に配っていたということも取り上げられています。

 

outsiders-report.com

 

 

 

実は私、8月末日付で監査法人を退職しており、現職で監査業務をやっているわけではないのですが、やっぱり監査業界の話題に関しては色々と思うことがあるので、今日は監査業界が今後どのようになるのか、そしてどのように変わっていくべきなのかについて自分が思っていることを書いてみようと思います。

 

 

まず、知っている方も多いかとは思いますが、監査業界は今かなり人不足の状態になっています。その経緯を超簡単に説明すると、

 

1. 2008年頃に日本で内部統制監査が導入されることになった段階で、業務量が増えることが予測されたことから、公認会計士試験を管轄している公認会計士・監査審査会金融庁に属する)が、大量の試験合格者を出すことに

 

2. 当初想定していたよりも業務量が多いわけではなく、監査法人は採用人数を試験合格者の増加にあわせて増員しなかった

 

3. 大量の試験合格者が就職難となった

 

4. 頑張って試験に合格しても、食っていけるかわからないことから公認会計士を目指す人が激減

 

5. 一方、会計不祥事が生じることに新たなルール作りがされていき、作業量は膨大になった。

 

 

こんな感じで、目指す人が減っているのに業務量が増えるばかりということが起きているために、深刻な人員不足が生じているのです。

しかし最近、この状況に加え、労基署による労働時間の規制という事実も加わるようになりました。監査法人長時間労働を規制するために、労基署が本格的に動いているのです。

 

監査法人で勤務している人は、四半期ごとに決算が来る上に、内部統制監査とか監査計画の策定とかで案外年がら年中忙しかったりします。

もちろん、年中夜中1時や2時まで勤務したりとかは稀ですが、やっぱりやることが多いから残業時間がどうしても普通の業界より多くなってしまいます。

(まあ、残業すればするほど給料はよくなるし、逆に残業代が全く無いと、住宅手当等がほとんどない監査法人の給料はそこまで旨味のあるものではなくなってくるのも事実であるため、残業ありきで仕事をしている人も結構いると思いますが。。)

 

 

 

ただ、今まで削減されることはほとんどなくとも、積み上がりは続けてきたルールをそのままにした状態でこういう規制を入れられたらどうなるでしょうか?

一人当たりの労働時間を長くすることができなくなるのであれば、労働人数を増やすしかありませんよね。大量の仕事を、より多くの人数で取り組むことで、残業時間を減らすしか術はなくなってきます。

実際、監査現場は本当に人を採用しないと仕事がまわらず、法人全体が危機的状況にあるっていうほど、人員が不足しているっていうわけではありません。しかし今、各法人中途採用をものすごく積極的に行なっており、USCPA保持者であれば日本の公認会計士試験に合格していなくても、採用できるようになっていたりもします。

 

 

これは恐らく、本当に人が足りないから人員数を増やそうとしているっていうよりかは、残業時間を削減するために単純な人員数を増やそうとしている部分が大きいのではないかと推察しています。

 

 

ただ、個人的にはこの動きは危ないと思っています。

 

 

監査の品質が騒がれている原因は、間違いなく監査をする側の能力の問題です。

そんな中でとにかく労働者を増やすために人を採用しまくってしまうと、言葉を選ばずに言うと仕事に対する意欲・能力が十分じゃない人も法人に入ってしまいます。

組織内の下層部でそういう人が増えたとしても、一時的には法人内に問題は起きません。なぜなら、スタッフ(監査法人内での一番下のランク)が任される仕事は比較的会計や監査のスキルがそこまでなくてもできてしまうものが多く、また、重い責任を負うことになる機会も少ないからです。

 

 

問題は、そういう人がチームのインチャージ(現場責任者)やマネジャーになったときです。

実際、インチャージやマネジャーレベルの人が監査クライアントの担当者の人と最も密にコミュニケーションをとることになるので、監査法人側に対する評価はこの人たちのパフォーマンスで大きく変わることになります。

どれだけスタッフがパフォーマンスの高い仕事をしたとしても、インチャージやマネジャーのパフォーマンスが低いとクライアントからの信頼を得ることも難しくなります。

 

 

また、不正や誤謬(会計処理の間違い)とかを見つけたりすることも難しくなるので、社会全体からの信頼を失ってしまう危険もあります。

 

 

 

つまり、人の質がものをいう組織が、試験合格者をほぼ全員採用したり、資格要件さえ満たしていればどんどん中途採用をするっていう仕組みは、根本から間違えていると思うんですよね。

そんな状態で、監査報告書の記載内容を拡充するとか、監査法人の交代を強制するとかいった対応策が検討されてるけど、そうじゃないやろと。

 

 

 

まずやるべきなのは、積み上げ過ぎてしまったルールを削減すること。

そして、矢継ぎ早に人を採用するのをやめ、入社希望者の経験やスキル・人格等も見極めた上で採用することで採用基準を厳格化すること。

 

 

これをやってしまうとまた合格者の就職難とかの問題が揶揄されるかもしれませんが、個人的にはそれがむしろ本来あるべき姿だと思っています。

売り手市場のときに採用してもらった自分が言っても説得力に欠けるのは百も承知ですが、試験に合格すれば安泰とかいうぬるい考えを持った人をどれだけ採用したとしても、監査の品質が向上するはずがないからです。

 

 

こんなこと言うと業界の人たちから嫌われてしまいそうですが、どうか小手先の対応策じゃなく、抜本的に制度を変えていってほしいと思っている次第です。

 

 

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。