会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

MSCBとは何か

会計士として仕事をしていると基本的に会計の知識が要求されるのですが、同時にファイナンスの知識も要求されることがあります。ファイナンスのことに関して無知だとクライアントの人と対等に話をすることもできないし、金融商品会計基準ファイナンスの知識なしでは理解することが難しいといった事情があるからです。

そんなわけで今日は、ライブドア事件で少し有名になった、MSCBという金融商品について紹介してみようと思います。

 

 

CBで儲かるカラク

まず、MSCBとは、Moving Strike Convertible Bondで、日本語では「下方修正条項付転換社債」と一般的に呼ばれます。随分長ったらしい名前です。。

普通の転換社債、いわゆるCBっていうのは、企業が資金調達のために社債を発行し、引き受けた側は将来株価があがったときに株価より安い転換価格で社債を株式に転換することができる、つまり株価が上がれば引き受けた側は利益を獲得できるし、発行者側も株式に転換されることで社債の償還が不要になるという、Win-Winの関係になれる金融商品のことを指します。

 

例えばA社という会社があったとしましょう。あなたはA社が将来ものすごく当たりそうな新規事業を画策しているとの情報を得たとします。これが当たれば将来の株価は跳ね上がりそうです。

そんなときにA社がCBを発行しました。このときの条件は以下の通りです。

 

A社の現在の株価:80円

CBの払込総額:100万円

転換価格:100円

 

この時点でまず発行企業は100万円の資金調達を実行できたという恩恵を受けます。

そして引き受け側は、仮に株価が200円になったときに株式に転換したとしましょう。

すると、払込金額100万円を転換価格100円で株式に換えるので、引き受け側は1万株を取得することができます。

その1万株を市場ですぐに売却したら、引き受け側は200万円を手にすることができるので、100万円も受けることができる。

 

 

これが、CBによって引き受け側が恩恵を受けることになるカラクリです。

加えて、発行企業は、株式に転換されたら調達した資金を返済するという義務から解放されることになります。

 

 

 

では、もし仮に株価が下がり続けているような場面や、企業規模と比して多額の資金調達が必要な場合はどうでしょうか。株価が下がり続けているような場面では、基本的にCB等による資金調達は困難になります。株式転換による恩恵を受けられる可能性が低い中で、利率が普通の社債(SB)等と比べて低いCBを引き受けようという投資家はいないからです。

また、例えば年間売上高100億円の会社が、大型買収を仕掛けるために数千億円規模の資金調達をしようとしても、まともな金融機関は相手にしてくれません。

 

 

 

引き受け側は大好き、既存株主は大嫌いなMSCB

しかし、こういった場面でもどうしても資金調達を行いたい、という場合、金融機関が引き受けてくれる可能性のある資金調達手段があります。それが、実際にライブドアによるニッポン放送の買収資金を調達するために利用された、MSCBです。

MSCBとCBの大きな違いは、MSCBは転換価格を当初よりも引き下げることが可能という点です。先ほどの例では、転換時の株価が仮に50円だった場合には、引き受け側は株式に転換してしまうと損失となってしまいます。転換により取得した1万株を市場に売却しても、50万円にしかならないからです。

しかし、MSCBだとこのような場合に転換価格を40円に下げたりすることが可能となります。この場合、転換した際に取得できる株式数が、1万株から2万5,000株になります。

そしたら、市場に50円で売却しても125万円を得ることができるため、引き受け側は依然として儲けることができます。

そういう意味で、引き受け側は損失が限定されていると言えます。

 

 

こうやって見ると、業績が振るわずに苦しんでいる発行会社も、リスクが低減される引き受け側にもメリットがあるため、MSCBは万能じゃないか!!と思いそうですよね。

しかし、このMSCBは決定的な弱点があります。それは、既存株主の利益を毀損するということです。

 

 

仮に上記のように転換価格を40円へ引き下げたとしましょう。すると、もともとは1万株株発行する予定であったものが、転換価格の引き下げにより2万5,000株を発行しなければならなくなります。

こうなると、通常のCBの場合よりも株式数が増える可能性がある、つまり潜在株式が増加することになり、希薄化効果が増大してしまうのです。

基本的に、希薄化効果が大きいと株価は下がる傾向があります。投資家は、将来転換により株式数が増加することによって、自分の保有する株式の価値が薄まると考えるからです。MSCBは大きな希薄化効果を有するため、株価は間違いないとっていいほど下がり、投資家からはかなり嫌われている資金調達方法であると言われています。

 

 

また、引き受け側の金融機関は、この株価が下がりやすいというMSCBの傾向を使って、大量の空売りを実行します。

株価が下がる前に空売りを仕掛けておき、MSCBの発行により株価が下がれば引き受け側の金融機関は利益を得ることができるからです。金融機関としては、株価が下がろうがMSCBの転換価格を下方修正すれば儲けることができるため、気にせず空売りを仕掛けても大丈夫です。

つまり、希薄化と大量の空売りというダブルパンチにより、株価が大きく下がりやすいということです。

金融機関はほぼ確実に儲けることができるため、そりゃ既存株主としてはたまったもんじゃないですよね・・・

 

 

今日も最後までお読み頂きありがとうございました。