会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

ドイツ銀行はどうなる?

最近、ドイツの最大手銀行であるドイツ銀行が破綻するのではないかという噂がそこらじゅうで流れています。様々なメディアでドイツ銀行がやばい、やばいと囁かれているのですが、本当にドイツ銀行は破綻するのでしょうか?今日はそこを少し考えていきます。

 

 

まず、ドイツ銀行の概要を説明しておきます。

ドイツ銀行(Deutche Bank)は、日本にも展開されているドイツの民間銀行です。金融に詳しい人の中では、ドイチェという名称で親しまれていたりします。銀行名にドイツという国の名前が入っているため中央銀行かと思われるかもしれませんが、あくまで民間銀行です。日本でいうなら、日本銀行ではなく、三菱UFJ銀行のような感じ。

2015年12月期のAnnual Reportに掲載されている財務状況によると、

 

・総資産:約210兆円

・総収益:約3兆3000億円

・純利益:約-8800億円(損失)

 

という具合。2016年3月期における三菱UFJ銀行の総資産が約223兆円なので、規模感的には似ているといった感じです。

 

 

 

・何が問題なのか

以下はドイツ銀行の株価チャートです。

 

f:id:sy-11-8-yossamaaaa:20161008163944p:plain

(出典:Bloomberg

 

この1年間で半減していますよね。これは、多くの投資家がドイツ銀行の財政状態や経営成績に懸念を示している証左といえます。これには複数の要因が絡んでいるとは思いますが、大きく3つの原因があると考えられます。

 

①2015年12月期における約8800億円もの当期純損失の計上

②米司法省からの約1兆4000億円の和解金支払い命令

③莫大なデリバティブエクスポージャー

 

 

 

まず①について、以下がドイツ銀行の2015年度Annual Reportにある損益計算書です。

 

f:id:sy-11-8-yossamaaaa:20161008164113p:plain

 

これを見ると、当期純損失となってしまった原因のひとつとして、57億ユーロの減損損失の計上があることがわかります。

ドイツ銀行のプレスリリースによると、これはすべてのれん及び無形資産の計上によるものです。

また、訴訟損失引当金を繰入れやリストラ費用も利益を圧迫した原因となっています。

ただ、これらの損失は恒常的なものとは言えないため、今後も継続的に赤字になるとはいえません。

 

 

②についてですが、リーマンショックが起きる前、サブプライムローン問題があったのを覚えているでしょうか?サブプライムローン問題は簡単にいうと、返済見込みの低い低所得者に対する高金利の住宅ローンが証券化されてばらまかれ、結果的に債務が返済されずに証券を購入した投資家が莫大な損失を被った問題です。

 

 

そしてこの証券化された住宅ローンのことを住宅ローン担保証券MBSというのですが、ドイツ銀行も2005年から2007年にかけて、MBSを不正に販売していたとのことです。

アメリカの司法省がこの不正販売に対する和解金として、1兆4000億円の支払いを命じたとメディアでとりあげられました。この和解金については、5000億円程度まで軽減されるだろうとは言われていますが、1兆円以上の支払いとなった場合には銀行の財政を圧迫することになります。

 

 

③最後に、ドイツ銀行は大量のデリバティブを保有しています。2015年12月末時点におけるデリバティブ資産のフェアバリュー(公正価値)は、約67兆円。そして、ドイツ銀行の持つデリバティブエクスポージャーがなんと約4870兆円にものぼります。

金額がでかすぎて意味わからないと思いますが、日本の2015年の名目GDPが約500兆円と考えると、天文学的な数字であることがわかります。

 

ただ、デリバティブエクスポージャーが4870兆円と言われても、何がどうやばいの?となると思います。この金額の大きさだけに捉われてドイツ銀行はやばいだの言っているサイトが多くありますが、勘違いしてはいけません。ここでいるデリバティブエクスポージャーっていうのは、あくまでリスクにさらされている想定元本の金額です。この意味を簡単な金利スワップを例に説明してみます。

 

 

・Aさんは銀行から100万円借りた時に、100万円の想定元本を設定して金利スワップ契約を締結する

・契約内容は、Aさんは変動金利を支払い、固定金利を受け取るというもの

・借入時の固定金利が2%で、金利授受時の変動金利が3%なら、Aさんは100万円×1%=1万円を、銀行に支払わなければならない

 

 

つまり、ここでいう100万円が4870兆円であり、実際に損失を被るリスクにさらされている金額はもっと少ないということです。

まあ、それにしても想定元本ベースが大きすぎて、実際に損失を被るリスクにさらされている金額も大きいことに変わりはありませんが。

 

 

・今後どうなるのか?

上記のように、今のドイツ銀行には懸念材料が多くあります。が、その懸念はそこまで大きくないと個人的に思っています。なぜなら、銀行は業績や株価水準が悪いのがいけないんじゃなくて、持っている資産の評価額が減ってしまうことが最悪だからです。

 

つまりどういうことか。銀行に限らず、会社が倒産する原因は、負債を返すキャッシュがなくなるからです。業績が赤字になったからとか株価が低くなったとかいうのは直接的には関係ありません。つまり銀行でいえば、預金という最大の負債を返済しきれなくなった時が終わりのときです。

そしてそれが返済できるかどうかは、ドイツ銀行が持つ換金可能な資産が十分にあるかどうかが関係してきます。

上のドイツ銀行のバランスシートを見る限り、預金が一気に引き出されたり、持っているデリバティブ資産の価値が激減したり、逆にデリバティブ負債が激増しない限りは、ドイツ銀行が倒産することはないのではと思います。

 

さすがに今回、ドイツ銀行がどのような内容のデリバティブを保有しているのかまでは調べていませんが、リーマンショック時におけるMBSのようなハイリスクなものはそこまで多く保有していないと考えられます。

したがって、

 

ドイツ銀行が超ハイリスクなデリバティブを持っていて、それが大きな評価減を生む

ドイツ銀行に対する悪業績や和解金の支払い等の懸念から、預金の引き出し要求が急増する

 

ような事態が生じない限り、ドイツ銀行は存続できると結論付けます。

 

 

・最悪の事態が生じた場合

仮に、上の2つの事象が実際に起きてしまったとしましょう。そうすると、まず間違いなく世界的な不況になります。リーマンショック時と違って、今は他にも懸念材料はたくさんあります。中東での紛争や中国のリスク、アメリカ大統領選挙ブレグジット・・・昨日もポンド円が謎に急落しましたが、世界中の投資家は結構ナーバスな状態になっています。

 

そんなときに世界でも有数の規模を誇るドイツ銀行が倒産なんてしたらどうなるでしょう?投資家の不安は爆発して、リーマンショック時よりも大きなパワーで暴落が起きるかもしれません。

なのでハイリスクなトレード等をしている人は、このドイツ銀行問題の動向にはしっかり注目しておかないと悲惨な目にあいかねないので、気をつけないといけませんね。

 

最後まで読んでくださりありがとうございます。