会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまにただ思ったことや感じたことを書きます。

ベーシックインカムの是非

最近、ベーシックインカムの議論が多く取り上げられるようになってきましたね。その火蓋となったのは、今年に入ってフィンランドが、抽選で選ばれた国民2000人に毎月560ユーロ(役6万8000円)を支給するというベーシックインカムの実験に踏み切ったというニュースではないでしょうか。

テクノロジー化が進み、新たな時代の節目を迎えつつあるとも言える今、国家レベルで世界的にベーシック検討が始まっています。今日は、そんなベーシックインカムが果たして便益をもたらすのか、それとも必要悪であるのかについて考えてみたいと思います。

 

 

 

ベーシックインカムとは?

ベーシックインカムは、簡単にいうと、ほとんどすべての国民が受け取ることができる国からの補助金みたいなものです。現在は、税金や社会保障費、国民年金等として国民から流入した国のお金(歳入)は、失業者や高齢者、障害者や重病人といったお金を必要としている人に分け与えられるシステムになっています。

つまり、今の日本のシステムは、「何らかの理由でお金を必要とする人」に所得の再分配がなされています。

これが、ベーシックインカムが導入されると、「特にお金を必要としない人」にも、所得の再分配がなされることになります。

 

 

 

実は、この「所得の再分配」といった機能を重視する有識者は結構昔からいました。有名どころで言うと、ミルトン・フリードマンマーティン・ルーサー・キングであり、彼らはベーシックインカムを、「究極の社会保障」と考えていました。

それでは、なぜまた最近になってベーシックインカムが注目されだしてきたのでしょうか。

これは、AIの発展によって、人間がそもそも労働という役割を担う必要がなくなる可能性が浮上してきたからだと考えられます。

 

 

 

昨年、世界はどこを目指しているのか? - 会計士の気まぐれ日記でも書いたように、AIの発展は今の人間の生活をガラリと変えてしまうと予測されます。これまで人間がやるしかなかった仕事が、機械によって代替され、悪く言えば人間が職を失い、良く言えば仕事というしがらみから解放された自由な生活ができるようになるかもしれないのです。

でも、仮にベーシックインカムのような制度がないまま人間の職が機械に奪われてしまったら、失業者がどんどん増え、AIの開発者・管理者達はどんどん富を得るといったことになっていしまいます。このような事態に陥ってしまわないために、ベーシックインカムの導入がここ最近また検討され始めている。こう考えると、ベーシックインカムは国の成長率の向上といった面はもちろん、AIの普及度合いにも関連性があると考えていいと言えますよね。

そこで、今日はAIが普及していない時にベーシックインカムを導入した場合と、普及している時に導入した場合に2パターンに分けて考えてみたいと思います。

 

 

・AIが普及していない時にベーシックインカムを導入したら?

現在、AIが私たちの日常生活に普及しているかと言われれば、否でしょう。まだまだ私たちの仕事を機械が全て代替するのには無理があるし、機械も人間のメンテナンスなしでは機能していけないままです。では、そのような状態のときにベーシックインカムを導入すれば、どうなるでしょうか。

 

 

まず、AIの普及が少ないときにベーシックインカムを大量に(ここでは、ベーシックインカムだけで十分生活していける量と考えてください。)国民に支給するわけにはいきません。それには2つの理由があります。

 

 

①そもそも、そんな大量の金をばらまくだけの財源がない

②仮に支給し始めた場合、働き手がいなくなることが懸念される

 

 

となると、AIが普及していないなかでベーシックインカムを導入する場合、月額数万円程度の少額の支給が現実的な限界と言えます。

では、少額のベーシックインカムが支給されたとしたら、どうなるでしょうか。

 

 

例えば、日本の人口は現在約1億2000万人ですが、仮に1億人に毎月2万円を支給するとなった場合であっても、単純計算で国は年間24兆円を確保する必要があります。2014年度の日本の税収合計が約54兆円なので、年間の全ての税収の半分くらいの財源を確保しなければなりません。

この24兆円を捻出しようとすれば、基本的に「富裕層からの税率の引き上げ」および「公共投資社会保障費の削減」の2つの方法によってまかなわれることになるでしょう。しかし、残念ながら今の日本でこれを実施するのは極めて難しいと考えられます。というのも、すでに日本は富裕層に腰を抜かすような高税率をかけており、これ以上引き上げの余地はありませんし、周知のとおり日本は高齢者が圧倒的割合を占める国なので社会補償費を削減するわけにもいかないからです。仮に税率引き上げ等を実践したとしても、富裕層がどんどん国外へ逃げるし、最終手段として国債を発行することも考えられますが、すでに狂ったように国債を発行している日本がこれ以上大量に国債を発行してしまうと、ハイパーインフレとった弊害をもたらし兼ねません。

 

 

f:id:sy-11-8-yossamaaaa:20170115103610p:plain

 

 

 上記は日本の平成28年度一般会計予算です。

歳出の社会保障費が約31兆円ですね。こう見ると、なんだか年金とか国民健康保険とかの社会保障を全て取っ払う代わりに、その分をベーシックインカムに充てられて可能じゃないか?とも考えられます。

しかし冒頭で述べた通り、現在は違法に生活保護手当等を受け取っている人等を除いて、社会保障費は高齢者や一部の障害者等の「どうしても国からの補助が必要」という人に充てられています。しかし、ベーシックインカムは「必ずしも国からの補助は必要じゃない人」にも支給されるので、歳入および歳出のパイが同じままベーシックインカムを導入した場合は「どうしても国からの補助が必要」な人の受け取る金額が減少することは間違い無いでしょう。

 

 

 

となると、月2万円のベーシックインカムを導入しようと思ったら、ベーシックインカムの支給による個人消費の押し上げ効果で税収をアップさせること、つまり歳入のパイを大きくすることが現実的に残された解決策と言えます。しかし、国民が月の給料に2万円がプラスされたかと言って、急に羽振りがよくなると考えられるでしょうか?

しかも、24兆円を税収の増加により回収しようと思ったら、単純に税率で割り戻した金額、つまり24兆円の数倍の利益を企業もしくは個人が創出しなければならないわけです。そう考えるとやっぱり、月額2万円といった場合でも財源の確保が困難であることから、AIが普及し切っていない現在日本がベーシックインカムを導入する必要はないと思います。

 

 

 

 

・AIが普及しきったときにベーシックインカムを導入したら?

今度は、AIが普及し、人間の仕事の多くを機械が代替するようになったときにベーシックインカムを導入するケースを考えてみます。

この場合、先ほどのケースと違って、ベーシックインカムを導入する目的が変わってきます。つまり、国の経済を活性化させるために行うというよりも、AIの台頭によって職を失った人を救う、もしくはそもそも人間の「労働」という仕組みを抜本的に変えるために行われます。

 

 

この目的でベーシックインカムを導入するとなった場合、ベーシックインカムだけで最低限生活ができるようになるほどの支給が必要になります。地域や年齢にもよりますが、一人当たりの最低生活費が10万円としましょう。すると、国民1億人に支給することとなった場合、必要な財源は約120兆円となります。日本の年間税収の2倍を越す財源が必要になりますね。

 

 

現在の日本で120兆円の財源を創出するのはほぼ不可能ですが、AIが普及し始めるようになったらわかりません。今のビジネスが、人件費の削減や仕事スピードの上昇により大幅に効率化され、大きく利益を出すことが可能になるかもしれないからです。

つまり、人間が働かなくても会社が利益を出せるようになる。そうなると、ホテルの従業員や教師等、ロボットでは代替できない業種以外の人はそもそも仕事をする必要がなくなるわけです。

 

 

資本主義の父、カール・マルクスは、「あらゆる価値は、労働により生み出される」と説きました。しかし、AIが台頭し始めている今、もはやその常識は変わりつつあるのです。つまり、人間の労働により価値を創出する必要がなくなるということ。そうなると、人間が全うしなければならない役目は変わってきます。今までほとんどの人にとって多くのウエイトを占めてきた「労働」という時間を、「消費」や「娯楽」に変換することが可能になるのです。

 

 

 もちろん上記は、仮に月10万円のベーシックインカムを支給するための財源が確保できたことを前提とした話です。でもこれがもし実現したら、なんだか夢物語のようですよね。国民のほとんどが、大学生みたいになるのです。つまり、何をするのも個人の自由。有り余った時間を使って遊ぶもよし、学ぶもよし、働くもよし。

しかも、人間は馬鹿な生き物ではないので、仮にAIに多くの職を駆逐されたとしても、人間にしかできない新たな仕事を創出するはずです。そしたら、ベーシックインカムだけでは満足できない人がその仕事で働くようになったりする。こうなったら、仕事にしがらみを感じているほとんどの人は今より幸福になれるのではないでしょうか。

 

 

 

今日は少し長くなりましたが、まとめると以下のとおりです。

 

 

・現状は、財源がないからベーシックインカムは導入すべきでない。

・逆にAIが台頭してきて、さらにそれによって国の歳入が大幅にアップすることが見込まれる場合は、ベーシックインカムの導入は必須。

・つまり、財源が確保できるのなら、ベーシックインカムは賛成。

 

 

 

といった感じです。

この問題に関しては賛否両論あって面白く、色んな人の意見を聞いてみたいですね。みなさんはベーシックインカム についてどう思われますでしょうか?

 

 

今日も最後までお読みいただきありがとうございます。